株式会社錦屋マリエマリエ 様 インタビュー

株式会社錦屋マリエマリエ 

伝統の着物を未来へ
新しい物と古き良き物の融合を目指して

株式会社錦屋マリエマリエ 

株式会社錦屋マリエマリエ 

取締役営業部長  勝田 素広 様

http://nskym.jp/

2016年9月1日

 

JR山手線そして東京メトロ丸の内線が走る四ツ谷駅は、新宿区四谷と千代田区麹町にまたがって存在している。
迎賓館やホテルニューオータニなどの格式高い建造物のほか、上智大学をはじめとした教育機関が多数立地するハイソサエティーな四谷。コンビニや飲食店、大手金融機関も豊富で、学生はもちろんビジネスマンにとっても便利な街だ。その一方で、緑豊かな公園が多く、仕事の合間に一息つける憩いの場を見つけやすいエリアでもある。
四ツ谷駅の改札を出て、目の前を走る新宿通り沿いを四谷三丁目方向に数分歩くと、モダンな呉服店が佇んでいる。今回ご訪問の錦屋マリエマリエ四ツ谷本店だ。
従来の呉服店とは一線を画す近代的かつ斬新な和の空間。青年時代をアメリカで過ごされた年若い部長様がオープンに携わったというのも頷ける。
今回は、勝田久美子社長のお孫様でもあるその勝田素広部長に、日本文化の象徴である着物を普及させる難しさ、そして着物のこれからについて伺った。


【日本の伝統衣装、着物と共に】

―業務内容について教えてください。

衣装のレンタルと販売を主にしています。赤坂の日枝神社、ホテル日航成田、香取神宮、そしてこちらの四谷本店の衣装室で衣装をお貸ししていて、さらに、本店ではお着物や小物類の販売もしています。仕立てからさせていただく場合もありますし、既に仕立てられている着物も販売しています。
中でも、メインにしているのは、婚礼衣装のレンタルです。結婚式の時にご新郎様ご新婦様がお召しになる着物やドレス、タキシードをお貸ししていますね。
あとは、日枝神社での宴会をお選びいただくための取り組みもしています。日枝神社で神前式をやりたいと思っている方はすごく多いんです。日本人の男女はもちろん、最近は外国のお客様にも神前式を希望される方が沢山いらっしゃいます。でも、披露宴はドレスを着てホテルでやりたいという方が多いので、「神前式は日枝神社で、披露宴は他のどこかで」となるケースが多いんです。日枝神社での宴会を選んでくださるお客様は、神前式を行った後に、同じ場所で披露宴もできる利便性と日枝神社の持つ厳かな雰囲気を重視されます。ご親族に高齢の方がいらっしゃる場合などは、移動しなくて済むということも大きいと思いますね。

―創業70年を迎えられたのですよね。

はい。1946年に創業したので今年で70年になります。日枝神社に衣装室ができたのが創業から12年後の1958年、ちょうど僕が生まれた1984年に日航ホテルに婚礼衣装室を開設できました。
錦屋マリエマリエは、創業当時から、日本の伝統である着物を着ることで感じられる喜びを未来に伝えていきたいという思いと共に歩んでおります。お客様に楽しみながら着物をお選びいただいたり、結婚式などのハレの日を人生最高のひとときとしてお過ごしいただけるような環境を作ることをモットーとしてきました。
一方、僕自身は学生時代をアメリカで生活していたので、お着物についての知識は身に着けている段階ですが、留学時代の実体験や見聞してきたことを、これからの当社やお着物の未来に役に立てて行きたいと考えているんです。

―新しい世界に飛び込むのは大変だったのではないですか?

そうですね。正直、僕はお着物の知識が少ないです。ずっとアメリカにいて、日本に帰ってきて、お着物のことがすぐにわかるのかと言ったら、そんなに浅い世界ではないですよね。コンピューターは得意ですが着物は難しいです。
でも、自分が着物の知識が少ないからこそ、同じ人の気持ちが分かります。だから、今のホームページを作ったときに、「お着物のことを知らない方でも着物を探しやすくするにはどうしたらいいか」を第一に考えました。
他の呉服屋さんのホームページを拝見しても、やはり着物に詳しい方に見やすい作りになっているんですよね。でも、僕のようにお着物のことを知らない人にとっては、「友達の結婚式に着物を着て行きたいけど何を着ればいいんだろう?」とか「どれ位の価格帯であれば失礼に当たらないのか」ということってわからないと思うんです。そして、わからないが故に「やっぱりドレスを着て行こう」ってなってしまうんですね。ただ、逆に考えると、「どこに着て行きたいか」「何の慶事の時に着たいか」ということはわかっているんです。だから、それをホームページのトップに掲載した方が良いのではないかと思いました。用途が結婚式なのかお茶会なのかをまず選んでもらって、結婚式のページにいくと和装・洋装に分かれていて、そこからもっと詳しく振袖などの説明を掲載するようにしました。
僕と同じようにお着物について詳しくない方が着物の世界に入りやすいように、自分の得意なコンピューターを活用するところから入りました。

http://nskym.jp/  株式会社錦屋マリエマリエ様 トップページ引用

―お着物を選ぶのにはまず来店していただくのですか?

婚礼衣装以外はまずはメールなどで問い合わせしてもらってから来店していただきます。婚礼衣装は、日枝神社などで展示会をやっているので、直接ご覧いただいています。一昨日は、日枝神社で七五三フェアを開催しました。
錦屋で扱っている商品は全て正絹(シルク)なんです。だから、触れば化学繊維でできている物とは全く違うことは分かっていただけます。シルクは、下着や寝間着でも、着た瞬間に肌触りが良いと分かりますけど、お着物も同じですね。

【新しい発想で一から作り上げた斬新かつ近代的な四ツ谷本店】

いわゆる昔からある呉服屋さんとは雰囲気がだいぶ違いますね。

従来の呉服屋さんって、そのお店に足を踏み入れた途端に、着物の独特の匂いが香ってきませんか?僕はそれが気になって仕方なかったんです。本店ではスティックディフューザーを置いてアロマ系の香りが漂うようにしました。音楽も、敢えて和風の曲はかけてないんです。ラジオやポップミュージック、何でもお客様の好きな音楽を流せるようにしています。

―お店作りのコンセプトをお聞かせいただけますか?

「和と洋の融合」、そして「新しい物と古くから伝わる良き物の融合」をコンセプトにしました。お着物を分からない人に、少しでも興味を持ってもらいたいと思って、店内の作りや置く物にはすごくこだわりましたね。生地もユニークで斬新な柄を揃えています。アクセサリー類も販売していますが、お着物の着ている時だけではなく洋服を着る時にも身に付けられる物を用意しています。
店内は、ショップスペース、茶房スペース、お着付けスペースの3層になっていて、全て仕切りで区切れるようになっています。日本は昔から襖などを使った奥行きのあるお部屋が多いんです。本店の店内も層を意識して奥行きを持たせるようにしました。来店されるお客様はご予約の方が多いのですが、まず衣装を見て、茶房スペースでお茶やお菓子を楽しんでから、お着付けに入っていただいています。
ご両親も一緒にいらっしゃっていれば茶房スペースでおくつろぎいただきながら、お嬢様が着物を着て現れた時にすぐに見えるような作りにしました。
あと、茶房スペースでは、外部から先生を呼んで着付け教室や着物を着た時のマナーなどを学ぶワークショップも開催しているんです。皆さんで着物の生地を使ったつまみ細工を作っていただいたりもしています。単に売るだけではなくて、和の物やお着物にまつわる楽しめることをできたらいいなと思って始めました。
次回は、10月に着物の生地を使って小物を作るワークショップを予定しています。最初は簡単なヘアピンから始まって、上達してくるとかんざしなども作っていますね。お着物を着るのは少しハードルが高いかもしれないですけど、小物を作って、洋服に合わせたり、誰かにプレゼントしたりということから、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいなと思っているんです。
先日までは、3回9000円で着付け教室を開催していました。一般の着付け教室に行くと、まずお着物を買わなければいけなかったりして、すごくお金がかかるので、もう少しリーズナブルにお着物に触れる機会を作れないかと思って始めてみました。

―新店舗探しはどのようなタイミングで始めたのですか?

物件を探し始めた時は、錦屋のホームページを作っている最中でした。以前は、店舗と事務所と倉庫が全て別の場所にあったんです。四谷に店舗と本社、それから九段下に倉庫があって、僕自身は市ヶ谷に事務所を借りて、ホームページなどのデータベース作りをやっていました。業務拠点が分かれていて不便なことも多く、1カ所に統合したかったのと全体的に手狭になってきたので、もっと広い所に移転することを決めました。

―カコビルに決定した理由は何ですか?

初めは、色々な不動産仲介業者と連絡を取って、生まれ育った半蔵門近辺を中心に探していました。でも、半蔵門は人通りが少なくて、お客様が来店するお店をオープンする場所としては合わないと思ったのでやめました。条件に合う物件がなかなか見つからなくて諦めかけていた時に、小川さんがこのカコビルを探してきてくださったんです。こちらは、大通り沿いで人通りも多いし、希望していた坪数だったので、紹介してもらってすぐに決めました。それに、このビルのオーナーさんは、実は帯職人の方で、着物とは縁も深いので色々お話しさせていただくことができたんです。僕の望む条件を聞き入れてくださったのも大きかったですね。初めてオーナーさんにお会いした日に、帯を作る作業場で昼寝したのが思い出に残っていますよ(笑)
最初は、移転先が見つからなくて大変でしたが、決めてから契約までは、小川さんにすごくスピーディーに動いていただけて本当にありがたかったです。小川さんからは、とにかく熱意を感じました。それも、この物件を借りた大きな理由の1つですね。
僕自身もお店をオープンするという経験がなかったので、最初、スケルトンの状態で引き渡された時は、この空間がどうなっていくのか全く想像がつきませんでした。什器が入り出して、ようやく少しずつイメージが掴めてきた感じですね。

―お店をオープンするにあたって工夫された点はありますか?

ショップと茶房スペースの間には段差があるんですが、本当は今のようなバリアフリーが叫ばれている時代にはない方がよいですよね。でも、敢えて段差を作りました。実は天井の高さも違うんですよ。30代位の女性にご来店いただきたいという思いもあるのですが、段差を作ることによって、無意識のうちに奥の層に入っていきやすい演出をしています。人間は無意識のうちに色々なことを感じていると思うんです。「匂い」「目線の高さ」「のれんをくぐる」。様々なことで、今いた場所から別の世界に入っていくような気持ちを味わってもらえたらと思っています。僕はお着物のことが分からないので、そういう部分に趣向を凝らしました。

―面白いですね。よろしければ、移転してからの感想をお聞かせください。

1階を店舗、2階を事務所兼倉庫にすることができたので、何よりも業務が効率的に進められるようになりました。それから、1階の店舗に、お着物を販売するショップスペース、茶房スペース、お着付けスペースの3つのスペースを設置できたこともよかったです。特に、以前はなかった茶房スペースを増やすことができたので、お客様にくつろいでいただきながら、お着物をご覧いただけるようになりました。前の店舗の時にはなかったサービスなのでとても満足しています。ショップスペースとお着付けスペースも、前より広くなって、ゆとりを持ってお客様にお着物をご紹介できるようになりました。あらゆる面で希望を叶えることができたと思っています。良い物件を探していただいてありがとうございました。

―ご満足いただけてとても嬉しいです。私のような初心者が、お着物を選ぶポイントはありますか?

やはりどんな時にお召しになるのかという用途が一番大きなポイントですね。あとは、予算や好みの色、身長なども大切です。ご来店いただければ、お客様に好みをお聞きして、季節なども考慮しながら合う物をおすすめいたします。色は季節によってあまり変わりませんが、生地に関しては、夏なら絽、衣替えの時期には裏地の付いていない単衣など色々あります。

たとえば浴衣なら、着物に詳しくない人から見ても、直感的に「キレイ」「可愛い」「似合う似合わない」が分かりますよね。でも、この丸まった布を見ても自分が着ているところを想像できないと思うんです。そして、この生地に何色の帯を合わせたらいいのかということも難しい。洋服なら、何色と何色が合うとか大体分かりますけど、着物になると、この色とこの色は合わないだろうと思っていても、実際に着てみると合ったりすることもあるんです。それが今でも不思議で仕方ないですね。
昔の人って、どういう感覚で景色や物を見ていたのだろうって感じます。洋服とは全く違いますから。

【これからのお着物への思い】

―お着物についてどのような思いをお持ちですか?

まず、若い世代に広げていきたいと思っています。そのために、今あるテクノロジーを着物の世界に生かせないかと考えているんです。例えば、この生地とこの帯を身に付けたらどう見えるかがプロジェクションマッピングみたいに現れたりすると面白いなと思います。仕立て上がりをイメージしやすいので、一緒に買い物をされている方との会話も弾みますし、着物選びを楽しんでいただけると思います。
「着物は高価なもの」という既成概念を若い人が持たれたままでいると、着物はスペシャルな慶事の時にしか使われなくなってしまいます。着る人、着る機会が少なければ、今度は単価を上げることになって、また着る人が少なくなる。お着物は綺麗で、着たいと思う人は沢山いるのに、ハードルが高くなってしまっているんですよね。
普段着として着物を定着させることは、この世から洋服がなくならない限り無理だと思います。でも、どうせ楽しんで贅沢として着るのなら、もっと日本人だということが嬉しくなるような着方や、お茶会以外の遊び方も考えていけたら面白いなと思っています。

―難しい部分ですね。若い世代のお客様にご来店いただくために工夫されていることはありますか?

着物を「着たい」と思っている方への窓口となるよう、着付け教室を定期的に開催しています。でも、お着物を綺麗だなと思ってはいるけれど、自分が着るまでの気持ちに達していない、そういう方に来店していただくのがすごく難しいです。そこは今突破口を探している部分ですね。僕はお着物を着ない人に対して、「もっと着よう」とか「着付け教室で着付けを習いましょう」というのは、少しアプローチの方法が違うのではないかと思うんです。
今のお着物の広告は、着物を着た女性が庭園にいる様子やスタジオ写真が多いですけど、これからはもう少しアート的というか、ファッショナブルにしてもいいのではないかと思っています。たとえば、ベラージオの噴水の前で着物姿の日本人がポーズを取っている広告の方がスタジオ写真よりもずっとワクワクすると思うんです。

―斬新な発想ですね。海外に対してはどのような思いをお持ちですか?

海外にも、もっと着物を広めたいです。具体的なことはお話しできませんが、一番考えているのはラスベガスですね。海外の人は、正装にタキシードとドレスを着ますけど、日本人がラスベガスに行ってリムジンから降りてきた時に女性がドレス、男性がタキシードだと何となく気取って見られるような気がするんです。体格も違うし、欧米人に比べたら、やはりタキシードやドレスが様にならないんですよね。でも、仮にリムジンから降りてきた男女がお着物を着ていたら、一瞬にして注目されます。自分が日本人だということを自己主張できて、見栄も張れて、絶対カッコいいと思うんです。お着物は見栄を張るためのものでもありますし、人に見られて、写真を撮ってもらうだけでも嬉しいですよね。

―ワクワクしますね。日本人として、私も着物が若い人や海外に広まっていくことを期待します。

1回でも着ていいなと感じたら、人間はもっと突き詰めたくなる生き物です。年をとってお金の自由ができてくると、男の人もそうなる方が多いですよね。年配の方でお着物を着て歩いている男性は見ていてカッコいいし、実際は僕も着たい気持ちがあるんです。
でも、着物を着るのに、何がネックになるかと言ったら、僕の年代は金銭的な部分なんです。簡単に1着2着と買い足せませんし、やはり高いんですよ。
化学繊維を使って生地のグレードを落とせば、当然安くはなるんですけど、錦屋は会社を創業してから一度も化学繊維を使ったことがありません。だから、会社としては、化学繊維を使うようになったら「錦屋さん、落ちたわね」と思われるのではないかと気になるみたいですね。
逆に、僕は時代のニーズに合わせていいと思うんです。化学繊維も日に日に進歩しているので、使ったとしても着物の品質がものすごく落ちる訳ではないんですよね。ですので、これまでの正絹(シルク)のお着物も大切にしつつ、化学繊維を使用した比較的安価にもかかわらず、ユニークでインパクトのあるお着物も用意してみたいです。そして、そういうお着物を着たい方のための広告を作ってアプローチすれば、きっと興味を持って来店してくれる方が出てくると思うんです。

―今後はどのように展開していかれるおつもりですか?

僕は、この一反の生地から何着の着物ができるのかという知識すらありませんでした。これだけデジタルに進んでいる世の中で、アナログなことが浸透していない。そして、このままだと、下手したら素晴らしい日本文化を知っている人達が皆いなくなってしまうでしょうね。だから、僕はまずお着物のことをデータベースとして、きちんと残して貯蓄できるようにしたいと思っています。ようやく今年から少し余裕ができそうなので、男性物のお着物について勉強しようと思っているんです。
今の世の中は、隣に住んでいる人のことすら知らないこともあると思います。テクノロジーが発展して、人間のコミュニケーションが円滑になったのかと言えば逆なんですよね。遠くにいる人にもすぐに電話やメールで連絡が取れてしまうから深いコミュニケーションを取らなくなってしまうんです。
今はネット上でポチッと押せば着物が届く時代です。でも、だからこそワークショップなどを通して少しでもコミュニケーションを取ってもらいたいと考えました。歴史は繰り返すものだし、きっとこれから先、前の時代に戻る時が来ると思うんです。日本の文化の中でも、コミュニケーションを通じてしか感じられない人のぬくもりやあたたかみがとても貴重だと感じているので、これからもお着物を通じてお客様とのコミュニケーションを大事にしていきたいと思っています。

【担当者コメント】

勝田部長、この度は誠に有難うございました。なかなかお客様のご要望にマッチした物件が見つからないなか、カコビルを見つけたときはかなり興奮したのを覚えています。『絶対に気に入って頂けるはず!!』と。そこからは早かったですね。希少な物件でしたので早急にご判断いただけて助かりました。店舗は賃借いただいた時と内装完成後が様変わりするので、楽しいですよね。御社の四谷本店も店構えから店内の奥に至るまで、勝田部長がアメリカで培った経験を生かして、新しい着物への思いを感じさせる内容になっていると思いました。
今回の取材にも快くご協力いただけて本当に感謝しております。今後ともよろしくお願い申し上げます。